コラム

裁判例 子の監護・引渡し

監護者を指定することが相当ではないとされた事例

弁護士 長島功

 子の監護者指定の審判事件においては、いずれの当事者が監護者として適切かが審理され、申立人を監護者とすべきであればその旨、相手方が監護者として適切であれば通常申立てが却下されます。
 しかし、大阪家裁審判平成26年8月15日は、そもそも監護者を指定する必要性があるのかという視点で考察し、監護者を指定することは相当ではないという理由で申立てを却下しました。
 少し特殊な事例であることから、ご紹介したいと思います。

1 事案の概要
 当事者夫婦には2人の子がおり、夫婦関係の悪化により、妻が自宅近くの実家に行く形で別居となりました。
 もっとも、別居中における子の監護は、夫婦が協力して行っていました。
 具体的には、妻は仕事を終えたのち自宅に戻り、食事の用意をして子らに食べさせた後、実家に戻り、それと入れ違いに夫は帰宅し、夫の仕事が休みだったり早く終わるような日は、妻が自宅に行くことなく夫が子らの面倒をみて、日曜日は隔週で子らと過ごすというようなものでした。
 このような事案で、妻が監護者指定の申立てを行いました。

2 裁判所の判断
 上記のような事案で、裁判所は監護者を指定する必要性について検討するとした上で、以下のような判断をしました。
 まず、夫婦がほぼ同じ程度に未成年者らの監護養育をしており、共同監護のような状態だとしました。そして、記録を検討しても、相手方の未成年者らに対する監護養育に大きな問題があるとは認められず、現在の共同監護のような状態はそれなりに安定していると評価できるとし、「子らの心情や現在の共同監護のような現状からすると、現時点において、未成年者らの監護者として申立人と相手方のいずれかを指定することは、未成年者らが申立人と相手方の双方と触れ合える現状を壊しかねず、相当でない」と判断し、申立を却下しました。
 近時は、夫婦が共働きで、同居中より監護養育を同程度に分担していたことから、別居後も単独親での監護が難しく、共同監護を継続しているケースが見受けられます。
 その場合、それがある程度安定的に実施されているのであれば、この審判例のように監護者を指定する必要がないとして、敢えて判断をしないという選択も適切な場合があろうかと思います。
 もっとも、離婚などで最初は安定的に共同監護が実施されていたものの、徐々に夫婦間の対立の激化が見られるような場合や、一見うまく行っているように見えても、実は未成年者が板挟みになっていて、双方に監護をされることで、未成年者に大きな負担がかかっていると思われるような場合等には、慎重な判断が必要と思われます。