婚姻費用分担請求について⑩~婚姻費用分担額の算定(3)~
弁護士 小島梓
前回のコラム「婚姻費用分担請求について⑨~婚姻費用分担額の算定(2)~」では、算定表を用いた、婚姻費用分担額の確認方法をご紹介しました。しかし、現実には、算定表では適正額が出せないケース、主張次第では適正額より金額を増減できるケースがあります。
そこで、今回は、よくある例外的なケースをご紹介します。
(1)高所得者の場合
裁判所の公開している算定表は、義務者(支払う側)については年収2000万円が、権利者については年収1000万円が上限となっています。そのため、これ以上の年収の場合は、算定表の数値を出すための基となっている実際の計算式を用いて計算をするなどの工夫や主張が必要になります。
(2)扶養者が他にもいる場合
夫と前妻との間に子供がおり、その子供の養育費を負担しているというように、他にも扶養者がいる場合、現在の婚姻費用分担額を算定する際には、他にも扶養している者がいるという事情をもって、基本的に適正額より減額することが可能となります。
(3)住宅ローン
例えば、義務者である夫が自宅を出た後も、妻子の住む自宅の住宅ローンを支払い続けているケースがあります。その場合、夫の負担が大きいことから、住宅ローンを支払い続けている事実により、夫が支払うべき婚姻費用分担額につき、算定表の適正額から減額することができる可能性があります。
「婚姻費用と住宅ローン」の中で、裁判例もご紹介しておりますのでご覧ください。
(4)私立学校の学費、保育園の費用など
最近、非常に増えているのが、保育園の費用や私立学校の学費の問題を抱えるご家庭です。算定表上の婚姻費用分担額にも教育関係費用というものが含まれているのですが、保育園や私立学校の費用はこれを大きく上回ることが珍しくありません。そのため、婚姻費用分担額の適正額に加えて、子供の教育関係費用が別途認められるケースがあります。
以上のケースについてはそれぞれのご夫婦の年収状況等に鑑み、考慮の仕方や計算方法が変わってきます。さらに、上記は例外的なケースの一例です。他にも適正額から増減額されうる事情というのがあります。
そのため、婚姻費用分担額を決める必要が出てきた場合には、一度、弁護士に相談し、少なくとも自分たち夫婦の場合、例外的事情はなく算定表で決まることになるかどうかという点を確認されるのが安全です。
そこで、次回以降、婚姻費用分担額を決めるための理想的な方法、すべきことの順序などについてご紹介していきたいと思います。