婚姻費用についての裁判例~有責配偶者からの婚姻費用の請求
弁護士 幡野真弥
権利者に別居や婚姻関係破綻の主たる責任がある場合は、権利者の生活費相当分については、義務者はその分の婚姻費用については責任を減免されます。
東京高裁平成31年1月31日決定は、妻が、子を監護する夫に対して、婚姻費用の分担を求めたケースです。
このケースで、裁判所は、
・別居の直接の原因は妻の暴力行為にあったこと
・この暴力行為による別居の開始がきっかけとなって、婚姻関係が一挙に悪化したこと
・暴力行為から別居に至る婚姻関係の悪化の経過の根底には、妻の長男に対する暴力とこれによる長男の心身への深刻な影響が存在すること
などの事実から、別居と婚姻関係の深刻な悪化については、妻の責任によるところが極めて大きいと判断しました。
そして
・妻は、栄養士及び調理師として稼働し、330万円余りの年収があり、夫が住宅ローンの返済をしている住居に別居後も引き続き居住していること
・相応の生活水準の生計を賄うに十分な状態にあるということができること
・夫は、会社を経営し、約900万円の収入があって、それ自体は妻の収入よりかなり多いが、住宅ローンとして月額約24万6000円を支払っており、さらに,別居後に住居を賃借、長男を養育しているが、その住居の賃料及び共益費(月額合計18万6000円)、私立学校に通学する長男の学費(年額91万9700円)や学習塾の費用(月額約4万円)などを負担していること
などの事実から、別居及び婚姻関係の悪化について極めて大きな責任があると認められる妻が、夫に対し、婚姻費用の分担を請求することは、信義に反し、又は権利の濫用として許されないというべきであると判断しました。
婚姻費用の分担請求が認められないケースとして、参考になると思います。