コラム

裁判例 子の監護・引渡し

きょうだい不分離の原則

弁護士 長島功

 監護者指定の場面できょうだいを分離してしまうと、子らは両親のみならず、きょうだいとも離れてしまうことからその心理的負担が大きいとして、きょうだいは分離すべきではないという考え方があります。
 ただし、この原則もあくまで一般論であり、絶対的な原則と考えるべきではなく、きょうだいの関係性や別居後の交流状況などから個別的な検討を行い、分離することが適切な場合も十分考えられます。東京高裁令和2年2月18日決定は、原審と抗告審で、きょうだい不分離に関し判断が分かれた事例であることから、ご紹介しようと思います。

1 事案の内容
 本件は、夫婦間に子は3人(長女、二女、三女)おり、同居中の主たる監護は母親でした。
 夫婦関係が悪化したことから、母親は自宅から徒歩数分の場所に家を借り、子らを連れて別居をしました。
 もっとも、その翌日、長女は自らの意思で父親のいる自宅に戻っています。
 その結果、父親の元で長女、母親の元で二女・三女が生活をするようになりました。
 このような状況下で、父母双方が子ら全員の監護者を自らと定めること、及び他方の元にいる子の引渡しを求めました。

2 裁判所の判断
 この事例で原審は、長女が母親との同居を拒否していたことから、この意向を尊重するべきとし、長女の監護者は父親とした上で、きょうだい不分離の原則から二女・三女も父親を監護者とし、二女・三女の引渡しを命じ、母親の申立ては却下しました。
 しかしながら抗告審は、長女については原審と同様の判断をしたものの、二女・三女については原審とは異なり、以下のような点を挙げて母親を監護者と定めるのが相当と判断しました。

・母親が主たる監護者であり、現在も母親のもとで生活をしており、その監護状況にも特段問題はない
・長女とは異なって二女・三女は母親との関係性も良好である
・いまだ幼い二女・三女を父親が引き取って日常的に監護をする場合の負担は格段に大きくなるのは明らで、父親にその体制が整っているといえるかは疑問が残る

 そして、きょうだい不分離の原則に反する結果となることについては、「長女と二女及び三女とで監護者を異ならせたとしても、本件においては、抗告人と相手方が比較的近い距離に居住しており、実際に、長女と二女・三女間の交流も相当程度頻繁に行われていることが認められるから、監護親が異なることによる弊害が大きいとはいえない」と述べています。

 このように、きょうだい不分離の原則は絶対的なものでもなく、結局のところは何が子の福祉に合致するかであるため、ケースによっては分離することが適切な場合もあります。本件は別居先も近く、子ら同士の交流がなされていて、誕生日も家族5人での交流ができていた事案です。
 例外的なケースではありますが、ご紹介いたします。