子供が小さく、働くことができない母親の収入ついて、賃金センサスをもとに収入を認定するのは相当ではないとした裁判例
弁護士 幡野真弥
婚姻費用や養育費の金額を算定するときには、父と母、双方の収入が基準となります。
このとき、父や母に現実に収入がないときは、賃金センサスなどの統計資料から、婚姻費用や養育費を計算するための収入を認定します。
しかし、事案によっては、賃金センサスの利用が適切でないようなこともあります。
今回は、東京高裁平成30年4月20日決定をご紹介します。
原審(さいたま家庭裁判所)は、働いていなかった母親の収入について、以下のにように認定しました。 「申立人は,歯科衛生士の資格を有しており,これまでに10年以上にわたる歯科医院での勤務歴があること,相手方が監護養育する長男及び長女はいまだ幼少であるが,長男は幼稚園に通園しており,また,申立人は,平日や休日にも在宅していることの多い申立人の母の監護補助を受けられる状況にあることからすると,申立人の就労が不可能ないし困難であるということはできず,申立人には潜在的稼働能力があると認められるから,申立人の総収入を0円とするのは妥当でない。
もっとも,申立人は,同居する親族ら(特に母)の監護補助を受けているとはいえ,いまだ幼少である長男及び長女を監護養育していることからすると,その勤務時間は相当程度制約されるものと考えられる。このことに加え,上記のような申立人が有する資格や勤務歴等に鑑みると,申立人は,平成28年賃金構造基本統計調査(賃金センサス)第3巻第13表「P医療,福祉」・企業規模計の女子短時間労働者(35~39歳)の年収額である151万円割程度の稼働能力を有すると認めるのが相当である。」
これに対して、母親が不服を申し立てたところ、東京高裁は、以下のように認定しました。
「原審申立人は,歯科衛生士の資格を有しており,10年以上にわたって歯科医院での勤務経験があるものの,本決定日において,長男は満5歳であるものの,長女は3歳に達したばかりの幼少であり,幼稚園にも保育園にも入園しておらず,その予定もないことからすると,婚姻費用の算定に当たり,原審申立人の潜在的な稼働能力をもとに,その収入を認定するのは相当とはいえない。
なお,本決定で原審相手方に支払を命じる婚姻費用は,長女が幼少であり,原審申立人が稼働できない状態にあることを前提とするものであるから,将来,長女が幼稚園等に通園を始めるなどして,原審申立人が稼働することができるようになった場合には,その時点において,婚姻費用の減額を必要とする事情が生じたものとして,婚姻費用の額が見直されるべきものであることを付言する。」
子が幼く、幼稚園や保育園に入園していない時点での、賃金センサスによる収入の認定について否定的な考えであり、参考になります。