年金受給資格を有しているにもかかわらず、その意思で年金を受給していない場合の婚姻費用について
弁護士 幡野真弥
東京高裁令和元年12月19日決定をご紹介します。
夫が、妻に対し、調停で合意した婚姻費用の減額を求めた事案です。
平成30年3月12日に、月額20万円を支払うという内容の調停が成立しました。
夫は、6月28日同月に勤務先を再雇用になるなどして減収したなどとして、婚姻費用の減額を求める旨の調停を申
し立てました。
今回の事案では、夫は、年金受給資格を有しているものの、70歳になるまでは年金を受給する意思がないとして、年金を受給していませんでした。夫がその意思で年金を受給していない場合に、婚姻費用を算定するうえで年金を考慮することができるかという点が問題になりました。
東京高裁の決定では、夫が年金受給資格を有しながら70歳まで年金を受給しないことについて、同居する夫婦の間では年金収入はその共同生活の糧とするのが通常であることからすると、夫の独自の判断で受給しないこととしたからといって、年金の収入がないものとして婚姻費用の算定をするのは相当といえない、と判断しました。
そして、夫の収入について、65歳で年金の受給を開始していれば得られた年金額を収入として計算し、婚姻費用の金額を定めました。
珍しい事案でしたので、ご紹介します。